北方謙三氏 父の霊前で気づいた金言「おやじ、結構いいことを言ったじゃねえかよと」

[ 2023年7月30日 17:03 ]

北方謙三氏
Photo By スポニチ

 作家の北方謙三氏(75)が30日、ニッポン放送「笑福亭鶴瓶 日曜日のそれ」(日曜後4・00)にゲスト出演し、亡き父との思い出を語った。

 中大法学部出身で、学生時代から執筆活動を開始。デビュー当初はその才能を絶賛されたという。「偉い人に、新潮社の応接室で“君はね、大江健三郎以来の学生作家、天才だ”って言われて。天才だと思ったんですよ」。鼻高々だった北方氏だが、「天才だと思って、次の作品もなかなか評判良くて、“俺はやっぱり天才だからな”って思って。次の作品を書いたら載らなくて、それからずーっと載らなくて」と、低迷期に突入したという。

 時を経て、“天才作家”のプライドもズタズタに。「5年ぐらい載らなくて、その間、天才だと思っていました。5年たって、天才じゃないかもしれないって。天才じゃないかもしれないけど、多少の才能はあるなって思えたんですよ。10年たった時に、石ころだなって思ったですね。そのへんに転がっている石ころと同じだと」と悟ったことを明かした。

 その様子を親友からも心配されたという。「“お前は一応、法学部に行っていて、司法試験だって受かりそうだった。もう1回、もう1年くらい勉強し直したら、司法試験に受かるから”って、泣いて説得されたことがあります」。さらに「道、外れたな、お前」とも言われたというが、「でも、外れたところにも道があるんだなって」と笑って振り返った。

 周囲からは筆を置くよう求める声も上がったが、ここで深い一言を授けてくれたのが、父だった。父はもともと小説家を「人間のクズ」と言うほど毛嫌いしていたが、「10年だからな。男は10年、同じところでじっと我慢していられるかどうかで決まるもんがあるんだよ」と、忠告をくれたという。当時の北方氏は「その時は何言ってるんだと思った」というが、しばらくして連載を抱えるなど、作家として生業が成り立っている自分に気づいたという。

 そんなある日、父が倒れて死去した。作家業が多忙な中での、突然の知らせだった。「ちゃぶ台を持って来て、線香を絶やさないようにしながら、寝ずに原稿を書いていたんですよ」。その時にふと、父の言葉がよみがえったという。「“10年って言われたな”って。10年って言われて、十数年たったけど、こんなに忙しくて、悲しんでもいられないような状態になって。おやじ、結構いいことを言ったじゃねえかよと思ったら、もう死んでいるんですよ。言えないんですよ」と振り返り、「そんなもんなんですよね」としみじみ語っていた。

続きを表示

「美脚」特集記事

「STARTO ENTERTAINMENT」特集記事

2023年7月30日のニュース