松本零士さんは今も宇宙を旅している 弟子が見た「仙人」のような師

[ 2023年12月27日 06:15 ]

2月に亡くなった松本零士さん

 【激動2023 著名人レクイエム(下)】「銀河鉄道999」「宇宙戦艦ヤマト」などを手掛けた漫画家の松本零士さんが2月13日、急性心不全で亡くなった。享年85。緻密なメカ描写と宇宙を舞台にしたSF作品で1970~80年代に起こした一大ブームは、青少年も楽しむ今のアニメ文化の始まりとなった。「エリア88」「ふたり鷹」などで知られ“零士イズム”を最も色濃く受け継いだ弟子の一人、新谷かおる氏(72)が、師のもとで学んだ日々を振り返った。(岩田 浩史)

 新谷氏が松本さんの「零時社」に入ったのは73年3月。「男おいどん」など四畳半シリーズで人気作家となった松本さんが「戦場まんがシリーズ」「エメラルダス」など戦記物やSFで人気を不動のものとし「宇宙戦艦ヤマト」でアニメ制作に加わった頃だった。

 当時の松本さんは「仙人に見えた」という。「不肖の弟子にいきなり極意をぶつけるので戸惑ってばかりだった」と振り返る。「線は腰で引け」「犬を描くならクジラに見えなければそれでいい」などの言葉は駆け出しの自分には理解できなかったが「独り立ちしてから理解できた」と、後に松本さんと双璧をなすと評価された美しいメカ描写を支えている。「零時社は定規を使わず直線も楕円(だえん)も円も描いた。だから機械も生き物のようだった」と学んだ技術は数え切れない。ただ緻密なメカを大量に描き続ける日々に疲れ2年半で退社した。

 その直後にヤマトが再放送でブレーク。松本さんは時の人となった。零時社退社後も助っ人として関わり続けた新谷氏も「戦場ロマン・シリーズ」で連載デビューが決定。77年に「銀河鉄道999」連載開始予告のページを手掛けたのを最後に独り立ちする。

 「999」は松本さんが最も大切にし続けた作品だ。「いつもの先生の作品」と新谷氏は言う。絶世の美女メーテルが支える、一見さえない星野鉄郎の成長物語。宇宙が舞台の未来的SFながら、乗るのはレトロなSL風という「男おいどん」的な昭和の空気も漂う松本ワールドの集大成。いつしか松本さんは漫画家を目指し小倉から夜汽車で上京した18歳の自分を重ねていた。81年に連載を終えたが、96年に「エターナル編」、2018年には島崎譲氏の作画で「ANOTHER STORY アルティメットジャーニー」で再開させている。

 「体は衰えても、あの人の気持ちは九州から上京したころと変わらなかった」と新谷氏。松本さんは漫画への情熱、宇宙への憧れを持ち続け、逝った。「生前、小さなカプセルに爪の一部を入れて人工衛星で宇宙に飛ばし、地球を周回していると聞きました。“20年したら地球に戻ってくるぞ”と言ってました」と笑う。その魂と作品は今もファンの心を宇宙に連れて行ってくれる。

 ○…「999」はまだ続いている。「アルティメットジャーニー」編は、劇場版「さよなら銀河鉄道999」に続く鉄郎の3度目の旅。松本さんがプロットを提供する形で、秋田書店の月刊漫画誌チャンピオンREDで始まったが、島崎氏が体調不良のため22年9月号掲載分を最後に休載中だ。編集部は「連載再開へ向けて準備中」としている。

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